紗和の視点

予防接種は、二度行く

十一月三日の朝、小児科の予約サイトを開いた。土曜の枠は、もうほとんど埋まっていた。予防接種は一つの予定に見えて、子ども二人ぶんで、しかも二回ずつある。

小児科の待合室のベンチで、泣いている幼い息子と、その隣で平気な顔をして座っている小学生の娘、そばに立つ母親

 祝日の朝、ソファで小児科の予約サイトを開いた。

 インフルエンザの予防接種。先週のおたよりに、学校で流行が始まりかけていると書いてあった。

 十一月のカレンダーを見た。土曜の枠は、もうほとんど埋まっていた。

 七日の土曜に、午前の枠が二つだけ残っている。二つ。ちょうど二人ぶんだ。

 押さえて、息を吐いて、それで終わりにしそうになった。

祝日の朝、ソファで小児科の予約サイトを開いて、土曜の枠が埋まっているのを見ている母親

 予防接種という言葉は、一つの予定のような顔をしている。

 実際は違う。十三歳未満は二回接種だから、茉央も朔も二回ずついる。二人で四回。しかも二回目は、一回目から決まった間隔を空けないといけない。

 つまり、一回目を取った瞬間に、二回目の日の範囲は決まっている。決まっているのに、その場では予約できない。予約サイトは、四週間先までしか開いていない。

 決まっているのに、今はできない。この組み合わせが、いちばん抜け落ちる。

 去年がそうだった。一回目を十一月に取って、二回目を後で取ろうと思って、その「後で」が年明けになった。十二月の土曜は全部埋まっていて、結局一月の中旬になった。

 一月の中旬に二回目を打つというのは、流行が始まってから備えるということだ。意味がないわけではないけれど、そうしたかったわけではない。

 忘れたのではない。二回目があることは知っていた。ただ、知っているだけで、どこにも置いていなかった。


 耕平がコーヒーを挽いていた手を止めて、こちらに来た。

「取れたのか」

「七日の午前。二人とも」

「二回目は」

 聞かれて、あ、と思った。

 去年のことを、耕平も覚えていたらしい。二回目の帰りに、もう一月だけどな、と二人で話した。

 サイトの説明を読んだ。二回目の予約は、一回目の接種が終わったあとに取れる。希望は四週間後、十二月五日の土曜。

「じゃあ、七日の夜に、予約を取る。これを予定にする」

「予約を取る、を予定にするのか」

「する。打つ日だけ入れても、取る日は来ない」

 リマインダーを置いた。十一月七日、夜の八時。二回目の予約を取る。

 それから、一つ足した。十二月五日の午前は、誰が連れていくか。

「俺が行く。二回目は俺だ」

 予約は取れたのに当日誰も動けない、というのは、実際に一度やっている。去年ではなく、一昨年のことだ。

祝日の朝のダイニングで、「予約を取る、を予定にするのか」「する」と話しながらスマートフォンに通知を置いている夫婦の2コマ

 土曜の午前、四人で小児科に行った。

 待合室は混んでいた。同じクラスの子を二人見かけて、お互いに、あ、という顔をした。

 茉央が先に呼ばれた。戻ってきて、何も言わなかった。腕に丸い絆創膏を貼っていた。

 朔は、名前を呼ばれた時点で泣いた。

 注射の前に泣いて、注射のときにも泣いて、終わってからも少し泣いた。それから、貼ってもらった絆創膏を見て、泣きやんだ。

「まおちゃんは、なかなかった」

「ないたよ。一年生のとき」

「へえ」

 朔は、少し安心した顔をした。

小児科の待合室で、泣きやんだばかりの幼い息子と、「ないたよ、一年生のとき」と言う姉の2コマ

 その日の夜八時、スマホが鳴った。

 二回目の予約を取る。

 朔は風呂に入っていて、茉央は宿題をやっていた。手が空いていた。

 サイトを開いたら、十二月五日の午前は、まだ十以上空いていた。

 二つ取った。三分で終わった。

 去年、この三分が、どこにもなかった。

この話に出てきた機能

家野家メモ

  • 子どもの予防接種は「一つの予定」ではない。回数と間隔を先に確かめて、二回目の日の範囲まで決めてから一回目を取る。
  • 一回目を取ったその場で、二回目の予約が取れるようになる日に通知を置く。あとで取ろうとすると、土曜の枠から埋まる。
  • 連れていく人も同時に決める。予約は取れたのに当日誰も動けない、が起きやすい。