家野家のれんらくちょう

共働きの夫婦と子ども2人、猫が1匹。学校と園から届くプリントに追われる家野家の一年を、1話完結で描く連載です。

第1話から読むarrow_forward
  1. 夜のキッチンで、冷蔵庫の横のコルクボードに重なったプリントを見ている母親と、その足元で眠る猫

    冷蔵庫の横で、プリントが3枚重なっていた夜

    集金袋の締切が今日だったと気づいたのは、夜の九時すぎ。冷蔵庫の横のコルクボードには、十一枚の紙が重なっていた。忘れていたわけではない。ただ、その紙のことを知っているのが、この家でわたしひとりだった、というだけの話。

  2. 朝のダイニングで、テーブルに並べたプリントをスマートフォンで真上から撮影する父親と、それを覗きこむ幼い息子、そばに座る猫

    撮ってみた、それだけ

    火曜の夜のことが、ずっと引っかかっていた。土曜の朝、コルクボードの紙を全部はがしてテーブルに並べた。十一枚。一枚目を撮ると、AIは日付をひとつ読み違えた。先生が手で直した箇所だった。

  3. 夕方のキッチンで、電話を耳に当てながらスマートフォンを見る母親と、そばでプリントを持って見上げる娘

    6文字だけ送った

    去年の運動会、母は一時間早く校門の前に立っていた。電話で伝えた予定が、途中で少しずつ形を変えたからだ。今年は、六文字のコードをLINEで送った。五分後に電話が鳴った。

  4. 夜のダイニングで、運動会のプログラムを広げて一緒に覗きこむ父親と母親、横から見ている娘と、椅子で丸くなる猫

    運動会は、誰が何時にどこにいるのか

    十月二日の予定は、もう家族三人の画面に入っている。それなのに、当日の話を始めて五分で、わたしと耕平の頭のなかがまるで違うことが分かった。日時は共有されていた。誰が何時にどこにいるのかは、どこにも書いていなかった。

  5. 夜の玄関に並べた体操服の袋・水筒・レジャーシート・子どもの靴を見下ろして、足りないものに気づいた母親と、そばに座る猫

    紅白帽はどこへ行った

    玄関に明日のものを並べて、一歩下がって気がついた。紅白帽がない。持ち物の紙は、何が要るかは教えてくれる。それが家のどこにあるかまでは、どこにも書いていない。

  6. 秋晴れの校庭で、レジャーシートに座ってお弁当を囲む家族4人と、折りたたみ椅子に座る祖母

    砂ぼこりと、ぬるい麦茶

    七時半の校庭は、まだ湿っていた。今年は俺が最初に着いて、シートを敷いた。一日が終わって気がついたのは、今日は一度も「次なに」と聞かなかった、ということだった。

  7. 平日の昼間、静かなダイニングでひとり焼きそばを食べている小学生の娘と、その足元に座る猫

    代休の月曜日は、給食がない

    月曜が代休だということは、家族全員が知っていた。知らなかったのは、その日に給食がないことと、耕平が出社日だということだった。学校からもらった予定表に書いてあったのは、「代休」の二文字だけだった。

  8. 夜のダイニングで、並んで座ってスマートフォンの運動会の写真を選んでいる夫婦と、テーブルの上で丸くなる猫

    運動会の写真は、二週間で消える

    木曜の夜、クラスのLINEに「写真、明日までですよね?」と流れてきた。運動会の写真販売のメールは、二週間前に届いていた。届いた日にいちばん読む気がしなくて、そのあと一度も上に出てこないものが、この世にはある。

  9. 夜の玄関に並べたリュックと水筒の前で、二つ折りのしおりを裏返して見ている母親と、そばに立つ小学生の娘

    遠足のしおりは、両面印刷だった

    遠足の前の晩、玄関に並べた荷物を見て、茉央が言った。レジャーシートは、と。持ち物のリストに、その五文字はなかった。AIが読み落としたわけではない。しおりは、両面印刷だった。