紗和の視点

遠足のしおりは、両面印刷だった

遠足の前の晩、玄関に並べた荷物を見て、茉央が言った。レジャーシートは、と。持ち物のリストに、その五文字はなかった。AIが読み落としたわけではない。しおりは、両面印刷だった。

夜の玄関に並べたリュックと水筒の前で、二つ折りのしおりを裏返して見ている母親と、そばに立つ小学生の娘

 遠足の前の晩、玄関に明日のものを並べた。

 リュック。水筒。お弁当箱は朝に入れるから、位置だけ空けてある。ハンカチ、ティッシュ、ビニール袋。ごみ袋。帽子。

 並べ終わって、一歩下がったところで、風呂上がりの茉央が廊下から出てきた。

「レジャーシートは?」

 わたしはスマホを開いて、明日の持ち物のリストを見た。

 リュック、水筒、お弁当、おやつ三百円まで、ハンカチ、ティッシュ、ビニール袋、ごみ袋、帽子。

 レジャーシートという五文字は、どこにもなかった。

夜の玄関に並べた遠足の荷物の前で、風呂上がりの娘が「レジャーシートは?」と言い、スマートフォンを見て固まる母親の2コマ

 最初に思ったのは、読み落としたのか、ということだった。

 二週間前に、遠足のしおりを撮っている。日程も集合時刻もちゃんと入っていた。だから持ち物も全部入っているものだと思っていた。

 取り込み履歴を開いた。いつ、何枚撮ったかが日付で並んでいて、そのときの元画像がそのまま残っている。

 九月三十日。遠足のしおり。一枚。

 一枚だった。

 元画像を拡大して見ると、紙の下のほうに、小さい字で、裏面もご覧ください、と印刷されていた。

 AIは、わたしが渡した一枚のことしか知らない。読み違えたのではなくて、渡していなかった。間違いはそこにあったのではなくて、その手前にあった。

 プリントは、一枚とはかぎらない。両面に印刷できる。学校は紙を減らしたいし、減らしてほしいとこちらも思っている。両面になるのは、都合が合っているということだ。ただ、撮るときだけは、人は紙を片面のものだと思っている。


「あのしおり、まだある?」

「あるよ」

 茉央はランドセルを取ってきて、底に手を入れた。教科書の下に、二つ折りの紙があった。四つ折りになりかけて、端が丸くなっていた。

 開いて、裏返した。

 裏面には、持ち物が二段組みで並んでいた。レジャーシート(一人用)。雨具。ビニール袋は二枚。軍手。刃物は持たせないこと。緊急連絡先の電話番号。

 半分だった。わたしが知っていたのは、半分だけだった。

ランドセルの底から二つ折りのしおりを取り出す娘と、それを開いて裏返し、裏面に並んだ持ち物を見ている母親の2コマ

「これ、先生が読んだ?」

「よんだ。みんなで。でも、もう忘れた」

 忘れたというのは、たぶん本当だ。二週間前に教室で読んだものを、今日覚えているはずがない。覚えていないことを責めても、レジャーシートは出てこない。


 テーブルにしおりを置いて、端を手で押さえて、真上から裏面を撮った。

 確認画面に、読み取った項目が並ぶ。自信がないところには印がつく。今回は、ビニール袋のところに印がついていた。二枚と書いてあるのを、二枚なのか、二つなのか、迷ったらしい。

 印のついたところだけを見て、裏面と見比べて、直した。全部を見直すのと、一か所だけ見るのでは、かかる時間が違う。

 茉央が横から覗きこんで、あ、と言った。

「ごみ袋、二ついるって、先生があとから言ってた」

 それは、しおりのどこにも書いていない。

 追加した。ごみ袋、二枚。


 レジャーシートは、衣がえの箱の上に乗っていた。運動会のときに使ったものを、そのまま乗せてあった。一人用ではないけれど、折れば入る。

 雨具と軍手を出して、玄関に足した。ビニール袋をもう一枚。ごみ袋ももう一枚。

 十時半には終わった。気づいたのが今日だったから終わった。明日の朝だったら、終わらなかった。

 寝る前に、茉央が言った。

「うらもあるって、いったよ」

 言っていない、とは言い切れなかった。言われたかもしれない。言われて、うん、と答えたかもしれない。

寝室の手前で娘が「うらもあるって、いったよ」と振り返り、答えに詰まる母親

 明日は六時半に起きる。お弁当には、おにぎりを入れることになっている。それは、表のほうに書いてあった。

この話に出てきた機能

家野家メモ

  • プリントは撮る前に一度裏返す。両面印刷のおたよりは、表に日程、裏に持ち物が分かれていることが多い。
  • 持ち物が足りないと思ったら、思い出す前に取り込み履歴を見る。元画像が残っていれば、自分が何を渡したのかがその場で分かる。
  • 子どもが「これもいるよ」と言ったものは、その場でリストに足す。子どものほうが教室で聞いていることは多い。